店長の遺言。
そんなこんなで去年の今ごろバイト先の店長が亡くなり、バタバタした日々が続いたが
1年たって、振り返る余裕もできたようだ。
気がつくと死んだ店長と一緒に仕事してたころが、もうずいぶんと遠いことのように思える。
そのころの自分の働きぶりを思い返すと、あまり熱心ではなかったなあと、後悔の思いでいっぱいになる。
とにかくそのころは週5日、夜10時から朝6時まで夜勤がはいってて、昼間もライター業とかいろんな用があって、日常的に疲れきっていた。
深夜って客が少なくて一見ヒマそうだが、接客以外に商品の品出しとか器具の洗浄とか次の日の仕込みとか、やることが無数にある。
それらをワンオペで朝の客が来るまでに片づける。そんな毎日が1年近く続き、体のあちこちが原因不明の痛みにおそわれていた。
夜勤にはいるとき、朝までもつかなと不安になることもあった。もしかして店長が死ななければ、かわりにこっちが死んでたかもしれない。店長より年上だし。
多忙さにまぎれ、ほんとは空いた時間にやらなきゃならない商品棚整理とか店内清掃も、つい省略してばかりいた。
あれは店長が急死するほんの2,3日前だったと思う。
朝、出てきた店長が入れ違いに帰ろうとする僕に、
「棚の整理とか、きちんとやってね」みたいなことをいった。
今まで何度もいわれてたのでこっちも耳タコだ。「ハイハイわかりました」みたいに軽く受け流しながら、内心「できなくたって仕方ねーだろ、ワンオペの夜勤は死ぬほど忙しいんだから」みたいに思っていた。
店長も夜勤の忙しさはわかってるのであまり厳しくは言わない。半分はあきらめてる感じで最後にぽつりと、
「店っていうのは手入れしないと、あっという間に荒れるからな」とひとりごとのようにいった。
その言葉が、店長が亡くなったあとも妙に心に残っている。
店長の死後しばらくは、心を入れ替えてまじめに棚の整理などをやっていたが
やっぱり忙しいのと疲労とで、だんだんできなくなっていった。
後任の新しい店長も、店にあまり愛情がないタイプみたいで、掃除とかメンテとかあまり厳しく言わないので、
死んだ店長の言ってたとおり、店は乱雑な感じになってきた。
僕はどうにもできず、そのありさまを眺めているだけだった。ほんとうにダメなアルバイトだった。
いまは同じ系列の別の店に移った。仕事も依然とさほど変わらない。
前の店よりヒマなので、手があいたときはできるだけ掃除や商品棚整理を心がけている。
そのたびに店長の言葉を思い出す。考えすぎかもしれないが、店長は死ぬ前に僕に店のことを頼むと託したのかもしれない。
店長、店を守りきれなくて申し訳なかったです――。心のなかで詫びながら棚の整理を続けている。